小ネタ 唐揚げか空揚げか

某新聞の見出しで「空揚げ」という表記があり、「え?唐揚げじゃないの?」と思ったのでちょっと調べてみました。
まずはネットでの使用率ということでグーグルでのヒット数比較。「空揚げ の検索結果 約 111,000 件」、「唐揚げ の検索結果 約 3,510,000 件」「から揚げ の検索結果 約 2,150,000 件」。うん、世間的には「唐揚げ」が圧倒的。
ところが広辞苑第四版では、「空揚げ」はあるが「唐揚げ」はない。
意味としては衣をつけない、あるいは小麦粉や片栗粉を軽くまぶして油で揚げた料理。
しかし、これも納得できない。衣をつけなかったら「素揚げ」ではないだろうか。
中華料理で言えば、酢豚の豚は粉をつけて揚げるのが基本だし、エビチリのエビもそう。これが素揚げだと食感が全く違う。

ネットでの意見では「粉をつけただけで味付けをしない物は空揚げ」「味付けをした上で粉をつけたものは唐揚げ」というのもあった。これは中々良いが、メニューとかで併記してあったら混乱するだろう。
それに、酢豚やエビチリのようにソースに絡めて食べる物の場合、事前の味付けが大きな違いになるだろうかという疑問もある。さらには、味付け目的ではなく水分を取るために塩、魚の身の引き締めのために酢を使った場合などはどちらになるのだろうという疑問も残る。

新聞などでは「複数の表記がある物は何か一つに統一する」というのが基本的なルールである。エビチリは「エビチリ」「海老チリ」「乾焼蝦仁(厳密にはこれはエビチリではない)」などの書き方があるが、どれか一つだけを使うのである。
私も仕事の関係でこの手の作成基準には気をつけていたのでつい敏感になるのだが、統一する場合には考慮しなければならないことがある。一つは「表記として正しいものを選ぶ」で、もう一つは「見る側が違和感を持たないものを選ぶ」である。
前者は今回だと辞書に準じることで、後者はグーグルのヒット数に準じることになる。専門用語の場合はどれほど世間一般で使われる頻度が高くても、正しい表記を採用するようにしている。
前回書いた時はこのルールの適用で「光学異性体」という言葉を使うべきか迷ったのだが、漢字の見た目で理解しやすそうだという理由で使うことにした。時には妥協もある。…だって、定義をしっかりと書かないと正しい用語は使えないし、そうするとえらく長い物になる。

というわけで、おそらく某新聞社内でも「空揚げ」に違和感を持っている人はいるのだろうとは思う。このような表記統一法は一度決めてしまうと簡単には変えられない。過去の記事を検索する場合に問題を起こす可能性があるからである。これを回避するために検索用語の揺らぎを認める方法もある。「空揚げ」「唐揚げ」「から揚げ」を同じ物と判断することになるが、言葉の揺らぎ辞書の作成は大変。

そもそも何故「唐揚げ」と書くのかと言えば、中国語で揚げ物は「炸」の字をあてるので中国語由来ではないようだ。「唐」には「赤」の意味があるので、油で揚げた時に粉が赤くなる辺りに由来があるのではないだろうかと推測する。もしかすると料理法が海外由来だから、昔は外国のことを総称して「唐」としていたものが残ったのかも知れないが。
これがさらに色が濃くなる片栗粉を使うと「竜田揚げ」になる。竜田は紅葉が美しい竜田山と神社を描いた能に由来するようだ。

取りあえず、正当性や歴史はどうでも良くて、見た目で美味しそうなのは「唐揚げ」だと思うのです。私の中では表記はこれに統一しようと思います。