大麻ナッツ

不思議なことに、日本では近年(元々はかなり以前からだが目立ってきたのは)大麻の栽培を解放せよという主張が目立つ。
これにはいくつか理由がある。

  1. 大麻栽培は遡ること弥生時代から栽培されている伝統作物である。
  2. 大麻から採取される繊維は日本の伝統産業として残すべきである。
  3. 大麻健康被害はアルコールやタバコに比べて低い。
  4. 大麻の薬理成分をほとんど含まない品種(トチギシロ)がある。
  5. 大麻は農薬や除草剤を必要とせず、荒れ地でも育つ。
  6. 大麻を植えた後は他の作物の栽培に適した土壌になる。
  7. 大麻は繊維の採取、繊維採取後の残滓からバイオマス産生、種子から油が採取されると、将来性のあるエコロジーな品種である。
  8. 大麻は生長時に大量の二酸化炭素を吸収するので地球温暖化防止に役立つ。
1と2はある程度理解できます。一部のサイトでは「大麻は神社のお札の意味がある程日本の伝統文化に根付いている」と書かれていますが、これも少し違います。ここで言われている大麻とは昔は「おおぬき」と呼ばれていた物で、簡単に言えば「お祓いに使う道具」を意味します。
神主さんが振る、紙がたくさん付いた棒に代表されるものです。転じてお札の意味にも使われます。正確に言えば、伊勢神宮のお札です。伊勢神宮のお札は別名「お祓いさん」とも言います。
古代においては紙ではなく大麻が棒の先に付けられていたのかも知れませんが、既に別の様式になっているので古代に戻る必要は既にありません。
ただし、注連縄や相撲の横綱などは麻を使用しているので日本の伝統文化に関係があることは間違いありません。
とはいえ、大麻は日本では外来種であることも事実。
3については確かに一般の麻薬のような急激な精神・身体的依存はないのですが、実際には双方の依存が確認されています。また、精神疾患の原因となる可能性が示唆されています。急性症状としてはタバコやアルコールの方が遙かに危険ですが、長期的にはかなり危険であると考えられています。
4は在来種との交雑によって薬理成分を取り戻すと言われています。
5はちょっと考えれば分かることですが、収量を増やすためには荒れ地より肥料を与えた方が良く、大麻に付く害虫もいるので農薬も必要です。除草剤については大麻自身が成長が早いことと、大麻アレロパシー(植物が化学物質を周囲に放出して他の植物の生長を阻害すること。桜はクマリンという物質を放出している)があるので必要ないのかも知れません。しかし耕作する場合は土地を消毒する必要があります。単純に農薬や肥料が必要ない作物とは言えません。
この説はほとんどの大麻待望サイトに書かれているのですが、単なる栽培と、収量の維持が必要な耕作とを混同していると思われます。
6も怪しい話です。大麻は3ヶ月程度で3m程に生長します。光合成だけで生長するのであればともかく、急激な生長には様々な栄養成分を必要とします。同じように早く成長する種に「ケナフ」がありますが、連作すると土地が痩せることが確認されています。
ケナフ大麻と同様に実を食べたり繊維を取る作物ですが、この際に生じる残滓を畑に鋤き込むことで土地が痩せるのを防止しているのです。
7は微妙なところですが、まず第一に「実を取るまで育てると繊維の採取には不向きになる」ことと「繊維を取るために育てると実が生る前に収穫することになる」ことが大麻待望サイトでは無視されています。このあたりが微妙。
実を取る目的に限定するとそれ以外の部分はバイオマスに回すことになります。それはそれで利用可能です。繊維を取るためでもその残滓である苧殻はバイオマスに回せます。
8についてはほとんど意味がありません。バイオマスに回して燃料化すれば吸収した二酸化炭素は再放出されますし、食べたものは排泄されてやはり二酸化炭素を放出します。繊維類の寿命がいくら長くても、せいぜい数年で廃棄されればやはり腐敗の結果二酸化炭素を放出します。加工や輸送や耕作の過程で使われる二酸化炭素が加わるので、二酸化炭素の総量を減らす効果は期待できません。まあ地球温暖化二酸化炭素の関係はそもそも怪しいのですが。

とはいえ、それなりに使える作物であることは否定出来ません。問題はただ一点。

大麻以外の作物でも繊維の採取とかバイオマスとかは出来る。

単純に荒れ地でも育つとか成長が早いとかいった特徴ならマメ科の「クズ」でも構いません。多年草のクズなら、一年草大麻と違って毎年畑を耕して幡種して、という手間がかかりません。クズからも繊維は取れます。他にも候補品種はいくらでもあります。
現在、一年草穀物などを多年草品種に置き変えるという研究が進んでいます。多年草の方が連作障害にも強く、手間がかからないという特徴があることが理由だそうです。毎年耕耘機を使わないで済むと言うことは、それだけ燃料を使わずに済むわけで、エコでもあるわけです。
大麻から繊維を取った残滓の苧殻を材料にエタノールを作るのであれば、ほとんど全ての植物が利用可能です。大麻にこだわる必要は全くなし。
大麻は医薬品としても使われています。抗ガン剤の副作用である食欲不振の対抗薬として処方されている国や地域もあります。しかし、これも大麻である必要は減ってきています。モルヒネの代わりに1000倍効果がある鎮痛剤が登場しつつある(アメリカ食品医薬品局EUでは認可済み)ように、別の薬品で代用できるからです。
何より、タバコやアルコールに比べれば急性症状は微量であるにせよ依存性や副作用がある薬理成分を含んだ植物を選ぶ必要性は全くありません。

タバコも数年前までは「一定期間吸い続けると依存性が生じる」とされていましたが、最新の研究で「一度吸えば脳内に依存性の器質変化が生じる」ことが判明しています。
大麻はWHOの調査報告ではタバコやアルコールとは比較にならない程安全とされていますが、特に長期使用ではこれがいつ覆るか分からない状態です。タバコのように常識とされていたことが覆る可能性がある以上、大麻を選択する必然性は皆無と言えるでしょう。

大麻取締法は成立過程からその社会的意義から酷い物ですが、それと大麻耕作の自由化とは全く別の物として考える必要があります。

最後に。
ケナフという外来植物を使って二酸化炭素を吸収するから環境に優しいとか大嘘を宣伝してるので注意して下さい。
ケナフは換金作物として中国などで栽培されています。
土地は痩せる、パルプ製造のコストが通常の5倍、木材パルプに比べて耕作や収穫の経費がかかる、収穫時期が限られるので保管場所が必要、木材チップに比べて重量当たりの容積が3倍で輸送にも保管にも無駄なコストがかかる、換金作物となるため森林を伐採して農地を確保する、とパルプ原料としては最悪の植物です。
紙ナプキンやコーヒーフィルタに使われていますから、これだけ無駄なコストをかけているのに即座に捨てられて二酸化炭素を再放出する存在です。
ケナフに比べたら国内で生産できるだけ、大麻の方がコスト的にも無駄な燃料消費を押さえる意味でも森林保護の意味でもかなりマシです。

Take care,Cannabis Nuts!