火炎瓶

学生運動、特に東大安田講堂事件でつとに有名な火炎瓶だが、一般の方は不思議だと思わないだろうか?なぜあれほど頻繁に火炎瓶を使ったのか、と。
火炎瓶は非常に手軽に作ることができる上、効果もそれなりにある。密室で用いられると被害は甚大な物となる。2000年のテレクラ放火では4人が死亡している。この事例では一升瓶が使用されているが、従業員が火炎瓶を投げ返しているにもかかわらずの被害である。
火炎瓶の法律上の定義は、ドラマなどで見る瓶の口に布を入れて内部に可燃性の液体を詰めたものだけではないが、今の日本ではこの形式が一般的だろう。
ちなみにこの方法だと簡単に作れるが、投げたり運んだりする際に内部の液体が体に付き、着火時にまず本人が燃えることもある。要するに危険物を素人は扱うな、ということだ。
さらに言うと液体をガソリンにするとほとんど爆弾同然の威力を持つが、ガソリンの気化速度は非常に速く、かつ気化した状態で着火するとまさしく爆弾なので着火した瞬間に本人が死ぬ確率も飛躍的に高まる。
さて、火炎瓶の効果の一つは視覚的なものである。炎が広がる様は純粋に恐怖を覚えるだろう。しかし、大量の放水でこれは簡単に抑えられる。

一般に油火災に水は禁物とされているが、大量の水を使うと炎を含めた周囲の温度が発火温度以下になるためか(要確認)比較的簡単に消火できる。一般家庭やキャンプでは絶対に応用できない消火方法なので試さないように。
食用油の発火点は菜種油の場合446℃。灯油は255℃。引火点は163℃と40℃。発火点とは空気内に置かれて炎なしに継続して燃える温度。引火点というのは空気内に置かれて着火可能な最低温度。ガソリンはこれが-45℃。
食用油の火災原因は油が発火点にまで温度を上げられたのが原因で、油自体が高温状態になっている。ここに水を投入して引火点以下にするためには相当量が必要。火炎瓶に灯油を使った場合は灯油自体の温度が高まっているわけではないので、何とか消せるようです。要するに火炎瓶の燃焼と食用油の燃焼はある意味別物なのです。

さて、相手の行動を阻止するための方法は炎以外にもあります。爆弾を仕掛けるというのが一つ。地雷もこれに相当します。朝鮮半島の38度線には大量の地雷があるのですが、今現在の主目的は侵攻阻止と亡命阻止。
爆弾が仕掛けられているのが室内となると、廊下や階段の要所に仕掛けるだけで相当の行動制限効果をもたらします。爆弾の製造方法が新左翼の間で広まったのは70年代以降なので安田講堂事件当時は一部の人間しか知らなかったと思われますが、警察はニトログリセリンの存在を非常に警戒していました。
扱いの困難なニトログリセリンですが、使用された場合の被害は甚大です。簡単に爆発するので着火装置も時限装置も使わず、ひもがあればワナとして使用可能。ニトログリセリンが入った試験管に結んで、誰かがひもに引っかかったら試験官が倒れるようにしておけば終わり。
しかし、ニトログリセリンも結局は使用されませんでした。
他には投石、銃という手があります。投石は実際に行われましたが、他の大学での投石に学んだ警察は対抗手段をしっかりと講じていたためそれほど効果はなく、銃は使用されなかったようです。
前年の日本大学の事例では16kgのコンクリート塊を頭部に受けた機動隊員が死亡しています。これにより、警察の対応は強硬姿勢となっていきます。犠牲者が出ないと強硬手段にでないのはやはり問題です。この事件は私が共謀罪を支持する要因の一つでもあります。

爆弾も銃も使わないのに火炎瓶は大量に使用された安田講堂事件。実はこの当時、火炎瓶の製造を規制する法律がなく、また使用した場合も爆発物の使用と認定されないため刑が軽かったのです。爆発物を使用した場合は最高死刑。一方火炎瓶を使用した場合の罰則は人間に被害を及ぼしたりしなかった場合は軽微なものだった。
製造には全く規制がなかったので、好きなだけ作って使うことができたわけです。今では製造したことがわかった時点で逮捕できるので大量に使用される可能性は低くなりました。
火炎びんの使用等の処罰に関する法律」が施行される前の約半年と、施行後の火炎瓶の使用量は1/10以下になっています。

そして1970年のよど号ハイジャック事件、1972年のあさま山荘事件とその後に発覚したリンチ殺人。これにより民衆から完全に見放された新左翼の実力行使は完全なるテロへと移行し、火炎瓶を使うような手段から爆弾、銃といったより凶悪な手段へと移行する。

法律がなかった時代は積極的に使われたが、法律によって規制されると即座に使用が減少した火炎瓶。法律の有無に関係なく、火炎瓶とは危険な物であり人間に対してすら使用されたこともある。
法律で規制された途端に自己規制。これでは革命の気概や理念の強さなどどこにも見いだすことはできません。武装革命を言葉の上では唱えていた新左翼のヘタレっぷりを示す一つの象徴が火炎瓶なのである。