ミツバチ大量死で泣きっ面にハチ

http://sankei.jp.msn.com/economy/business/090410/biz0904100008000-n1.htm
http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2009041000810


 メロンやスイカの受粉作業に欠かせないミツバチが大幅に減少していることが10日、農水省の調査で明らかになった。昨夏に起きた働きバチの大量死などが主因とみられ、21都県で不足状態に陥っているという。受粉が滞ると果実の収穫量が減り、価格も上昇しかねないため、同省は緊急対策に乗り出した。(時事通信)

gooニュースではタイトルのようにふざけたことを書いているが、実は事態は限りなく深刻なのだ。偶然、『ハチはなぜ大量死したのか』(文藝春秋)という本を買っていて積んでいたので開いてみたのだが、2007年には北半球のセイヨウミツバチの1/4が消えたそうだ。
記事では病気や外敵や農薬が原因ではないかと書かれているが、本を読むとそれほど単純な話ではないらしい。なぜか巣を放棄してハチがいなくなってしまうという現象が起きている。病気や外敵や農薬が原因ならば死体が巣箱にあるはずだが、そうではないというのだ。
アメリカでは受粉を請け負いながら蜂蜜を採るために何千キロも移動することが珍しくないので、原因が拡散したと考えることもできる。しかし、事がアメリカ国外にまで拡散していることからそれも考えにくい。
アメリカから国外に輸出される場合は検疫が行われる。各国で使用する農薬は異なるから被害範囲と一致しない。原因不明で特定種が世界規模で激減しているという不気味なことが起きているのだ。一方日本の固有種であるニホンミツバチはこのような減少はしていない。
それとともに受粉費用(ミツバチの巣箱を作物のそばに設置して受粉させるために農家が養蜂家に払う費用)は2004年から2007年にかけて3倍に高騰している。

受粉には虫媒と風媒の二つに大きく大別できる。他にも受粉の方式はあるが本稿では関連性が低いので省く。穀物は多くが風媒だが、他の作物の多くは虫が受粉を媒介する。
特に自家受粉ではなく他家受粉が基本の作物はほとんどが虫媒であると考えて良い。
野菜の場合、葉物と根茎類以外の果実・種を食用とする物は虫がいなければ実が生らないか、生っても形が崩れていたり生産性が低下する
果物の場合はそのほとんどが果実であることと、木のように人間が受粉させる作業が困難な場合が多いのでより影響は深刻と言える。
葉物野菜の場合でも種がなければ育てられないわけで、影響は少なからずある。ただし種の供給メーカーの数が限られていることと、そのようなメーカーは優先的に受粉のためのミツバチを確保できるからとりあえずは問題ないだろう。
他に食肉のための畜獣の餌がある。小麦やトウモロコシは前述のように風媒なので影響は少ないだろうが、大豆は価格の高騰が考えられる。牧草も高騰する可能性がある。食の安定供給が維持できるかは危うい。

セイヨウミツバチは古くからヨーロッパで利用されていたが、本によるとその中でもイタリアの国境付近にいる一群が温厚で勤勉という理由から各地に移植されたらしい。要するに昆虫としては遺伝的に極端に均質な部類と言える
遺伝子操作によって作られた作物、特にクローン技術を導入して増やされた作物は特定の原因によって全体が被害を受ける可能性が高いが、セイヨウミツバチもこれに近い状態なのだ。

ミツバチ以外にもマルハナバチやハエなどが虫媒として自然界では機能しているが、人間によって移動可能な巣を持っていないので持続して利用することはできない。

他にも植物、特に果実を食べる自然界の動物にとっても問題は深刻だ。木の実が生らなくなればそれを食料としている鳥は激減するだろう。他にもサルなど果実食の動物もいる。セイヨウミツバチはそもそも熱帯地方の昆虫なので熱帯地域の生態系にも影響が及んでいる可能性がある。

事態はかなり深刻かつ危険だ。原因の究明と解決を願わずにはいられない。