ミミック 先祖返り

映画で『ミミック』という物があります。ゴキブリが媒介する伝染病に対処するために、シロアリとカマキリの遺伝子を合成して作った「ユダ」という生物が作られます。こいつがNYのゴキブリを殲滅してくれるという導入です。…うちにも一匹欲しいです。ゴキブリは極めて稀にしか出ないですけど。
実は今日レンタルが届いたので見たのです。
ユダは繁殖力もなく、自殺遺伝子を組み込むことで寿命が設定されているので増殖することはないはずだったのですが、なぜか繁殖もするし寿命が短いせいか代替わりの速度が高くあっという間に進化してしまいます。
そして人間に擬態して人間を餌として襲うようになる、という話。
どうしてそんなことになったのか、という説明はないのですが、最近ネットで調べていたら興味深い記事を見つけました。
ソースは失念したのですが、「RNAキャッシュ」で検索すると概要は分かると思います。

私が学生だった頃はまだ「セントラルドグマ」が学校で教えられていました。今はどうなっているのでしょうか。初期のセントラルドグマは、DNAが体を作る設計図→RNAがそれを読み取る→蛋白質が作られる、という一方通行のものでした。しかし、実際には色々と違っていることが既に分かっています。
知っている限りでもセントラルドグマは4回の修正を余儀なくされています。その中でも大きいのはRNAからDNAに情報が転写される(逆転写)というものです。これはウイルスを使ったDNA書き換えの方法として利用されています。

セントラルドグマの修正は他にもRNA干渉というものがあります。RNAが主体となって作られる蛋白質を抑制するものです。
これが研究されるきっかけは、猫のクローンだったと記憶しています。一匹の猫から複数のクローンを作ったら、毛の模様が違っていたのです。DNAが体の設計図であるならば毛の模様も同じはずなのに、それが実際には異なっていた。調べてみたら、RNAがDNAから与えられた設計図と生産個数のうち生産個数を勝手に少なくしていたことが分かったのです。

逆転写よりさらに大きいのがRNAキャッシュです。RNA干渉ではDNAが与える設計図に変更を加えることはしなかったのに、RNAキャッシュでは設計図すら変えてしまうのです。
どのような形でそれが行われるのかは研究中の様ですが、ストレスが原因で起きるらしいことが示唆されています。
DNAは設計図ですが、RNAも独自の設計図を何らかの方法で保存していて、現在のDNAではストレスに対応できない場合にRNAキャッシュを使って書き換えが起きるそうです。
確認されているのは植物なのですが、DNAには存在しない、祖父母の遺伝子がRNAキャッシュとして保存されていて、必要に応じてDNAを書き換えてしまうのだそうです。RNAが設計図の古いバージョンを保存しているということですね。

これを念頭に置いて『ミミック』を見ると、繁殖力が戻ったのもあり得る話だなぁ、と納得してしまいます。映画自体古いので当時は単なる遺伝子操作によって引き起こされる予期せぬ事態といった設定のようですが、今となると『十分に可能性はある』と思えるのです。

かつてヨーロッパではハエの退治に「不妊処理をしたハエを大量に放つ」という方法を取りました。これは大成功したのですが、この時は放射線か何かで不妊処理をしたと記憶しています。
もし、これが遺伝子操作で行われていたら…ちょっと怖いですね。下手をしたら不妊処理をしたハエを放った分、ハエを増やすことになったかも知れません。
まだまだDNAとRNAには未知の領域があるようです。安易な遺伝子操作作物の導入は悲劇的な結果を生む可能性が残っているようです。クローン豚や牛の安全性は認められましたが、猫の事例を見ると本当に安全なのだろうか、という疑問は拭えません。クローンについては様々な研究が進んでいるので大丈夫だとは思うのですが、作物の方はもしかしたら…と考えてしまいます。
セントラルドグマを信じている貴方。ちょっとご自分で現在の研究結果を調べた方が良いかもしれませんよ…。