人間は脳の10パーセントしか使っていない

という言葉を久しぶりに聞いた。『SPEC』の番宣で。
この手の言葉「脳のnパーセントしか使っていない」はかなり昔から(少なくとも1800年代後半には)使われているモノで、そのあたりからしておかしいのだがわかるだろうか。
脳の活動を計る方法としては脳波計やPETがあるが、頭皮越しに計測する脳波計では大まかな精神活動しか測定できない。特に昔となればなおさらである。より正確なfMRIやPETの登場はもっと最近。MRIですら1970年代後半に人間の断層写真撮影に成功ですから。
つまり、脳の活動を正確にかつ広範囲かつ量的に計測できるようになったのは最近の話なのです。
さらにはどの程度使っているのかなんてのは、脳の機能が各所に局在しているとする説を支持するならば意味がありません。論理思考すると脳の右半球下前頭回の活動が活発になるという観察があるようです。つまり論理思考にとっては、脳の何%を使っているかなんてことよりも、この部分の細胞がどれだけ活発に活動しているかの方が意味を持つわけです。
記憶を思い出そうとしている場合は海馬とか前頭葉とかの活動量に意味がある。脳全体の活動量とは関係がない。

つまり「脳のnパーセントしか使っていない」ってのは全く根拠がないもので、「10%神話」と名前までついている大嘘。

Wikiには「ニューロン細胞とグリア細胞の比率」がこの神話の出所と書かれているが、これにはなるほどといった感じ。情報伝達を担うニューロンが、脳内には10%くらいしか無いわけですね。
もっともグリア細胞の機能も見直されているので、この辺りのWikiの記述ももう少ししたら注釈付きに書き直されるんでしょう。「グリア細胞が情報伝達に関わっていないとされた時代に」とか。

今でもネット上には「使っていない脳の部分を活性化して云々」といった怪しげなサイトが溢れていますが、そういったサイトはまず間違いなく眉唾です。第一、そんなサイトの運営者に「脳の活動状態の量的計測手段」があるとは思えません。

まあドラマの設定として使われる分には実害はほとんど無いんでしょうし、ドラマも楽しみにしています。

実害?「10%神話」が延命しちゃうことです。