沈まぬ太陽…

ノーカット放送ということで見ました。小説は読んでいないし、事実関係についてもあまり調べ「ない」ことを前提で映画の感想。JAL123便の墜落事故については『墜落遺体』などを読んでいるために実際にあったことについてはそこそこ知識ありです。
すげー無駄。時間と制作費と俳優陣。
まず、はじめの方のゾウ撃ちで萎え。時代的に野生動物のハンティングは珍しくなかったとか、実際にやったのかもとか入れるだけの理由があったのかもしれませんが、絵的にただ笑えるだけ。
何というか、動物を殺すこととか解剖するとかハンティングの的にすることってのはそれはそれで映像的に価値があるわけです。ミンクの毛皮を取るとか、犬の脳味噌をすりつぶしてガスクロマトで成分を調べるとか、ただ娯楽のために撃つとかであっても。で、それが映画であるならばそれなりの「見せ方」が存在するのですが、そういった配慮が一切無い。
多分配慮した結果があれなのだろうけど、あれじゃ配慮の意味なし。真正面からの着弾は滑稽すぎる。倒れ方も変。
次のNAL123便墜落のシーンにいたっては比喩とかではなく、実際に吐き気がしました。家族にメモを残した人がいたのは事実だし、他にも事例があります。ただ、そこに阪神の野球帽をかぶった子供まで入れる必要があるのかと。
冒頭に、フィクションだ、実際の企業などとは関係ないと出しておきながら、なんで実際の事故の犠牲者の方々を再現する必要があるのだろうか。123便である必要ももちろんないし、御巣鷹山に墜落したことにする必要もない。
別便番号を使ってもいいし、群馬県山中とかでもいい。
映画ごときのために、実際の犠牲者の方々をもう一度殺す権利など誰にもない
これがノンフィクションであり、事故の記憶を残し、慰霊し、悲劇を繰り返さないための映像であるならば話は違う。犠牲者の方々が生きていた形を改変することの方が無礼だ。
だか映画はフィクションと謳っている(小説とか映画化とかでJALともめたから入れた、逃げのための一文なのだろうが)。ならばしっかりフィクションにすべきだ。
死者に対する礼儀すらない映画が何を語っても空ろにしか聞こえない。

つぎに疑問なのが渡辺謙が演じた人の位置づけ。…狂言回し? 実際の事故の原因は、映画で繰り返しNALの問題となっている「過重労働」ではない。つまり史実でJALにそのような問題があったとしても、JAL123便の事故とは直接結びつかない。まあこじつければ事故原因を点検で見つけられなかった理由を「過重労働」とみなすことはできますが。
映画のNALの問題である安全軽視・労働規約無視を当初から危惧していた人物として、その後の事故・事故の対応・会社の更生に至る関係者として扱うにしても映画ではその価値が見いだせない。
渡辺謙(御本人に対する評価ではありません)が演じた人物が何をしたのかを見ていくとひどいものです。

  • ストの日時を教条主義的に設定し、会社側と労組の間に決定的な溝を作る。
  • 懲罰人事は自分だけ、という約束を取り付けて異動するも、その約束が守られたか確認もせず放置。組合自体はその後も残っていたので手紙などで確認可能だったにもかかわらず。
  • 約束が守られず、再度異動させられるもまた確認を怠る。この時点で「安全第一」も守られていないことが予測されるのに、何ら対応せず。労組時代の理念はどこに?
  • この辺りで会社を提訴とかしていれば、後の事故を防げたかもしれない。
  • 日本勤務に戻るも、遺族対策で誠意を見せるのみにとどまる。(実際の123便事故でもJALの対応があまりにひどかったことが記録に残っている。その一方、事故以降何年も年賀状のやりとりを続けるほど遺族と人間的なつながりを持ち続けた担当者もいる)
  • 会社の経営的問題の調査でNYへ。弁護士さんが細かい数字を記憶していたおかげで不正を知るも、対策を講じられず。会長に直接進言もせず?
  • 労組時代の仲間が遺族会名簿をなにがしか問題がある目的のために入手しようとしていることを知るも、何もせず。会長に直接進言もせず?
  • 会長の好意で希望の部署に異動が叶うも、横槍でアフリカに異動。会社の問題を社会に公表もせず、粛々とアフリカへ。
  • アフリカから手紙を遺族に宛てて出す。

えーと、なんでしょうか、この「会社の命令に従っただけで何も成果を出さなかった、誠意だけある人」。もしかして主役ですか?
まあ現実の会社員ってのは組織の中ではこんなものでしょうけど、それを映画にする意味ってナニ?

さらに新しく総理大臣の指名で入った会長さん。
安全の確保実現に向けて組織を改革しましたが、他はどうかというと、

  • 経営上問題があると指摘された為替関連について、なんら手を打たず国会で問題にされ、辞職。
  • 辞職の席まで待ってNYの不正を暴き、更迭動議を出す。←もっと早くやれ。待っている間に、会社の資産がもっと不正に利用されている可能性がある。

この方が選ばれし経営者だとすると、一般の経営者はどれだけ機会を逸した決定をする無能なのでしょうか。

登場人物で会社・政治関係の人間は「無能か私欲に走るか」の二択。いやいや、これなら会社も国も沈む一方です。こんなキャラ設定、厨二病でもしませんよ。するのはせいぜい「連続ドラマ小説」と「韓国ドラマ」くらい。
組織の中での苦悩とか人間関係での苦悩を描くなら他に適任者がいくらでもいるはず。懲罰人事で会社を辞めてしまった人の視点の方が、映画として成立するんじゃないでしょうか?

まあ途中で寝なかっただけ日本映画としては良い方なんですけどね。
原作がアニメとか漫画ならもっと大胆に構成を変えて映画化するだろうに(それこそ原作には登場しない人物を主人公にしたり)、小説に忠実に作ったんでしょうか?

「〜・オブ・ザ・デッド」と銘打った映画を見まくっているおかげでクソ映画には耐性があるんですが、それでなお久しぶりに酷い映画を見た、というお話。

ラスト近くの、空港から飛び立つ異様にでかいジャンボ(? ジャンボは正確にはボーイング747型機のこと)のシーンなんかは失笑するしかありませんでした。