バカチョンカメラ

いまだにこの「チョン」について朝鮮人の蔑称という誤解がまかり通っているようだ。ちょっと考えればわかると思うのだが、1970〜1980年代に企業が朝鮮人の蔑称をキャッチコピーその他に使えるはずがない。
相手は警察署に乗り込んできて暴動を起こしたりする連中なのだ。
ちょっと歴史的経緯も振り返りながらそのあたりを考える。

まずはバカチョンカメラが示す対象。
どうもCMの効果なのかAFコンパクトカメラのインパクトからか、バカチョンカメラというとオートフォーカスのコンパクトカメラを差すように思われているようだ。実際私もそう思っていた。
しかし、この言葉はコンパクトカメラ登場以前から使われていたもので、コダックのインスタマチックもそう呼ばれていたとのこと。
このインスタマチックというカメラ、携帯のカメラと同様にピント合わせの必要がなく(固定焦点)、シャッタースピードも固定、絞りも固定なものが大半(絞りはけっこうオートもあったらしい)なので、ユーザーにできることといえば明るいところを選んで撮るとかいったこと以外では「シャッターを押す」と「フィルムを巻く」だけ。なるほど、バカチョンだ。
インスタマチック愛好家をおそらく中心として、バカチョンカメラはカメラマニアの間で共通して使われていた言葉のようだ。
そうなると、カメラ雑誌等でも使われていた可能性が高い。

バカチョンカメラという言葉が一般に広まったのは、コンパクトカメラ発売後、1977年以降にCMで「馬鹿でもチョンでも」(「馬鹿でもチョンと押して」説もあるが、前者のよう)というセリフが流れたのがきっかけとされる。インスタマチックがバカチョンカメラと呼ばれていたことを考えると、AFコンパクトのCMにこのキャッチコピーは至極当然だとメーカーの人は思っただろう。
とはいえ、色々調べてはみたのだがCMのメーカー・商品が何だったのか、いつ放映されたのかは不明。ただ、その後急速に普及し、この言葉はTVの番組などでも普通に使われるようになったのは確か。

「馬鹿でもチョンでも」という言葉自体は明治初期には文献にも登場し、それ以前、つまりは江戸時代でも「頭が足りない人」を意味していた。チョンには「短い」という意味もあり、ギリチョンのそれは「ギリギリの短い時間を残した」もしくは「ギリギリちょうどの時間で間に合った」といったことを意味します。「ちょんびり」はちょっぴり、少しといったことを意味します。
チョンの「足りない人」というのも「短い」→「足りない」→「頭が足りない」「半端者」といった連想で生まれた言葉のようです。
「ゝ」という踊り字を「ちょん」と言うのですが、これを「特定の音を持たない半端物」とすることを由来とするものもあるようです。

蔑称の「チョン」の由来は何かというと、朝鮮(チョソン)から来ているという説がありますが、私は白丁(ペクチョン)から来ているという説を支持します。白丁は朝鮮の被差別階級のことで、それ自体が蔑称みたいなものなので。ただし真相は不明。
でも日本では色白が古来から良く思われ、色の白いは七難隠すという言葉もある中で「色が白くすらない」→(白丁−白)=丁(チョン)が蔑称となった、というのはなんだか説得力がある。
使用されていた時代はと言うと、少なくとも満州帰りの祖母が「チョンはダメだ」「チョンはあれはダメだ」を口癖としているので1940年頃にはこの蔑称も定着していたと思われる。まあもっと古くからだとは思いますが。

さて、この手の「差別だ」的抗議活動はいつ頃から行われていたかというと、戦後は朝鮮人の抗議活動は生活基盤といったものや北と南の対立といった祖国に関するもの、あるいは民族学校だったりと、もっと現実的なものでした。
被差別を「売り」にした団体は有りましたが、全国的に公共を相手に活動するようになったのは1951年以降のようです。金嬉老事件(警察の差別問題が取り上げられた)なんかは1968年。
日立就職差別事件は1974年結審で、この頃には在日問題はひとつの利権として定着したと言える。
バカチョンカメラという言葉に対する抗議はAFコンパクトの発売後(1977)で、抗議が盛り上がったのは80年代という説もある。が、発売時には在日問題は企業としては触れたくないものだったことは確実

まとめると

といった時系列。
60〜80年代は差別用語の自主規制もかなり始まっていて、企業にしろ何にしろ、その手の言葉を使わないように周知徹底していた。
60年代には結構な数の歌詞が差別的だとして歌えないものになったりしている。OLという言葉もそれまで使われていたBusiness Girl(商売女)の代わりに雑誌が募集したもので、やはりこの頃。
60年代に学生運動をやっていた新左翼は日立就職差別事件に群がってきていたので、下手な言葉を使うと抗議活動が起きることは目に見えている。
そんな時代に、バカでも朝鮮人でも使える、なんて言葉を企業が選ぶはずがない。
仮に企業が朝鮮人を蔑視していたとしても、そんな存在を「カメラという高級感があった商品を手軽に買える、使えるものにしました」というCMに登場させる必要がない。というか、避けます。
使われたのは、その当時「チョン」という言葉に差別的な意味があるなどとは知らなかった、もしくは「馬鹿でもチョンでも」が昔から使われてた言葉だったから、さらには以前からその種のカメラがバカチョンカメラと呼ばれていたから、といった理由なのでしょう。
まさか使った企業も言いがかりで使われなくなるとは予想しなかったのでしょう。
もう単なる感情の問題。中国で日本鬼子のように〜、韓国で倭奴のように〜といった慣用句があった場合に、日本人が抗議するか、みたいなもの。まあ抗議しませんが。
日本では「JAP」というマンガが存在し、それなりに人気だった(週刊サンデーで連載してた)が、抗議によってタイトルが「バランサー」に変更させられたという例がある。しかしこれは日本人がつけたタイトルに日本人が抗議したものなのでちょっと意味合いが違う。
結局は度量の問題なのだろうか。朝鮮人が「我々は差別されている」と感じて言葉に文句をつけるのは勝手だが、日本の古くからある言葉をすら、しかも「チョン」は朝鮮人の姓「全・鄭」でもあるので、使用を禁止にさせるのは間違っているだろう。
今ではTVで「チョン」と言うのは厳禁なのだが、鄭さんが出演していると名前を呼ばざるを得ない。その時の画面には、なんとも居心地が悪そうな出演者たちがいる。
抗議するなら「差別を目的として使われる言葉」にしておくべきだったのだ。
閑話1
ちなみにチョンマゲは正確には髻(もとどり)と言い、侍に向かって「そのチョンマゲかっこいいですね」とか言ったら激怒される類の言葉なのだそうです。意訳すると「そのマヌケ頭かっこいいですね」とか「ハンパ頭」と言ってるようなもの?
閑話2
バカチョンという言葉は朝鮮人の蔑称ではない、といったことはネット上でいくらでも見つけられるのですが、この言葉の出典は?メーカーは?機種は?出典年代は?抗議はいつ?といったことはほとんど見つかりませんでした。
CMはほぼ間違いなくあったらしいので映像が残っているといいのですが、まず無理でしょうね。
出演タレントが特定できれば、とも思うのですが、経歴から削除されてたら終わりだし。
閑話3
それにしても、みなさんネット上で「バカチョン」連呼しすぎです。検索すると出てくるわ出てくるわ。かといって、検索ワードから弾けないしorz